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プーアール茶と健康


発酵のお茶

■油を流すプーアール茶
プーアール茶を飲むと油を流すと言われています。
それはおそらく油を分解する作用のことを指しています。

熟茶のプーアル茶 熟茶のプーアル茶

油汚れのお皿を熟茶のプーアール茶で流すと、まるで洗剤で洗ったようにキレイに流れてサラッとしてくれます。くっつきやすい性質の油を、酵素成分がバラバラに分解するからです。分解によってその特性を失ったり、性質のちがう物質に変わったりします。
これは熟茶のプーアール茶に強くある作用で、新しい生茶のプーアール茶にはわずかしかありません。

ではなぜ熟茶にこのような酵素が多くあるのでしょうか?
そこには「発酵」という自然現象が関係しています。
ここで言う「発酵」とは、菌類の活動によって人体に有効な成分がつくられることを言います。熟茶はつくるときに発酵させています。麹菌や酵母菌がグループになって働いて、茶葉の成分を変化させています。酵素は発酵のときに活動した菌類がつくった成分なのです。

■軽発酵のお茶と重発酵のお茶
お茶の発酵という言葉は、一般的に菌類の関係していない茶葉そのものの持つ成分変化を指します。まぎらわしいので、ここではっきりと区別しておきます。

紅茶 熟茶
左: 紅茶の発酵(菌類は関係していない)
右: 熟茶の発酵(菌類が関係している)

上の写真は「紅茶」と「熟茶」の比較です。
紅茶の発酵は、摘みたての茶葉自身の持つ成分変化によるもので、菌類の活動は関係していません。茶葉は摘まれた後に放っておくと、緑色から黄色へ、黄色から赤茶色へとじわじわ変色してゆきます。この変化を促す成分もまた酵素なのですが、この酵素は茶葉自身が生まれながらにもっているものです。外から来た菌類がつくったものではありません。
熟茶の発酵には菌類が関わっています。発酵のための倉庫に住みついている菌類の活動によって、茶葉の成分が変化します。お茶の発酵にはこの2つのタイプがあることになります。
プーアール茶づくりの現場では、この2つを「軽発酵」と「重発酵」とに呼び分けています。軽発酵が茶葉の内側からの変化で、重発酵が菌類の働きによる外側からの変化です。
熟茶の「重発酵」の工程については、『版納古樹熟餅2010年』のページに詳しく写真入りで紹介しているので、そちらを参照してください。
【版納古樹熟餅2010年プーアル熟茶】

老六安茶

熟茶のプーアール茶は1970年代から量産がはじめられた比較的歴史の浅いお茶ですが、その製法はもっと古い「黒茶」に基づいたものです。茶葉を堆積させて湿度と温度を保ち、菌類の増殖を促す「黒茶」の歴史は古く、はっきりとした起源はわからないのですが、例えば北宋熙寧年間(約西暦紀元1074年)の文献には緑茶の色が変化して黒色になることが書かれています。上の写真は安徽省の黒茶「六安茶」の1970年代のものですが、これも歴史の古い黒茶で、明朝(1368年~1644年)から存在したとされています。
【六安茶70年代後期】

昔の人々は菌類の働きを解明する前に、発酵したお茶がどのように身体に良いのかを知っていました。
古い時代の黒茶は、主に砂漠地帯の遊牧民族に利用されていますが、遊牧民族はその生活様式から野菜や果物が摂取しにくく、肉や乳製品が主食となるので、消化を助けたりビタミンや食物繊維の補給できる黒茶が生活必需品となったのです。
現在の日本ではダイエット効果に注目されていますが、中国から外国へ輸出されるプーアール茶の熟茶は、フランスやロシアに多いことが知られています。カロリーの高い食生活や寒冷な気候なども、発酵のお茶を利用する きっかけとなります。

発酵の熟茶プーアル茶

■発酵と消化
ところで菌類はどうして油を分解するための酵素をつくったのでしょうか?菌類は油(脂質)の分解酵素だけでなく、たんぱく質、澱粉質、糖質などなど様々な成分を分解するための酵素をつくっています。
わかりやすく言うと、菌類はお茶を食べようとしているのです。
菌類は人間のような手や口がありません。植物のような根や葉もありません。しかし生き物なので、栄養を摂る必要があります。発酵のための倉庫の壁や床に付いていたり空中を漂ったりしている菌類が、お茶の表面に付着して、接しているところの細胞壁から栄養を吸収するためには、茶葉の成分を吸収しやすい形に変化させなければなりません。そこで酵素を放って分解します。つまりこれは菌類の消化活動なのです。

発酵の熟茶プーアル茶

茶葉の表面で増殖した菌類がつくった酵素や、それによって変化した成分が、そのまま残って発酵のお茶となっています。言い方を変えれば「菌類が食べかけたり消化しかけたお茶」といったところでしょうか。
人のお腹の中でも、菌類や酵素が消化に活躍していますが、それに似たようなことが発酵食品ではすでに外側ではじまっています。発酵食品の多くが消化に良いのはこのためです。
発酵食品とお腹の中の消化が似ていることを示す面白い漢方薬があります。当店のサイトでも紹介している「虫屎茶」です。
【プーアール茶と茶虫】
虫の糞なんて現在の人の感覚では汚いと思うでしょうか。しかし昔の人は虫のお腹の中でおこっている現象に注目して、これを胃腸薬として利用していました。茶葉だけを一生食べて育つ茶虫のお腹の中には、消化のための強力な酵素が大量に分泌されています。また菌類は他の雑菌の繁殖を防ぐために天然の抗生物質をつくるものがあります。虫の糞にはそれらの作用が残っているというわけです。

茶虫。外包み側についていた

ちなみに「虫屎茶」の味は、どこか熟茶と似たところがあります。
人の健康にとって、消化がいかに大切かは言うまでもありませんが、どんなに栄養のあるものを口に入れても消化がうまくゆかなければ吸収し損なって流れてしまい、身体を正常に保つことができなくなります。
「お腹を冷やしてはいけない」と昔から言われていますが、消化に活躍する菌類や酵素には、働きやすい適温があります。熟茶をつくる発酵の倉庫にも適温があるように、お腹の中にも適温があり、お腹が冷えるとそれらの働きが鈍ります。夏の暑いときであっても食事中に氷水をがぶ飲みするのは、消化不良の原因になります。
発酵の作用は消化に役立つだけではありません。腐敗を防止したり、薬となる成分をつくったり、美味しさとなる成分をつくったりします。つぎに様々な発酵食品とその機能を紹介します。

■発酵食品のいろいろ
われわれの食生活には発酵食品が欠かせないものとなっています。納豆、味噌、漬物、チーズ、ヨーグルト、調味料の多くも醸造過程で発酵が行われています。パンは生地を発酵させて焼くことで味わい深く甘い香りに仕上がります。
ここでは上海と雲南省西双版納で出会ったいくつかの発酵食品を紹介します。中国南部から東南アジアにかけては発酵食品の宝庫ですが、その多くは長江やメコン川流域を発祥とする古い稲作文化が育くんだものです。同じく稲作からはじまった日本の食のルーツが伺えます。

豆味噌を利用した漬物 豆味噌
豆鼓(トーチー)は豆味噌のことです。
西双版納孟臘県では現在でも各家庭で塩辛納豆作りが行われています。これをもとに味噌や醤油や漬物がつくられます。黒豆にそのまま麹カビを発生させる昔ながらの豆味噌づくりです。麹菌や酵母菌の働きで、大豆のたんぱく質が分解されて旨味成分のアミノ酸などになります。

腐乳 白胡麻油漬け
腐乳(フールー)は豆腐の塩辛チーズです。
琉球王朝の時代にこれが沖縄に伝わって「とうふよう」が生まれています。豆腐を塩と麹と白酒に漬けて寝かします。舌にピリリと感じるほど乳酸発酵したものもあります。東洋のチーズと呼ばれるような風味です。中国では調味料として使うことが多く、ペースト状にして鍋物のタレや野菜炒めにします。
【腐乳空心菜】



泡菜は漬物のことです。
乳酸発酵したすっぱい漬物は塩分が強いので、そのまま食べるよりも炒め物やスープにします。また泡菜の漬け汁も調味料になります。乳酸菌の酸は他の雑菌を殺す強い作用があるので腐りにくくなります。野菜でつくる漬物は火を通さないので、熱に弱いビタミンCなどの栄養を維持しています。菌類が新たに生成して増加するビタミン類もあります。
【泡菜黄魚】
【泡汁蛤蜊湯】

筍干は竹の子を漬物にして干したもの。梅干菜は青菜を漬物にして干したものです。いずれもスープや肉の煮物に使います。乳酸菌の殺菌作用と乾燥によって、保存にとても強い食品がつくれます。素材そのものの栄養だけでなく、発酵による新しい栄養や味覚成分が豊富にあるため、調味料として使われます。
【筍干焼肉】
【梅干菜焼肉】

熟れ鮓

生食では危ない肉や魚も乳酸発酵させて、熱を通さずに食べることができます。川魚を塩と麹で漬ける熟れ鮓は、西双版納あたりのメコン川流域の水田地帯が発祥と言われています。田んぼの用水路で採れる小魚を原料にしてつくられた保存食です。言うまでもなく鮨のルーツです。

肉の漬物

生肉の漬物もあります。豚や牛の新鮮な生肉を乳酸発酵させます。乳酸菌で悪い菌は殺菌されているので、そのまま食べられるものもあります。壺に漬けておくと一年間は保存できます。やや塩辛いため、スープにすることが多い食材ですが、発酵によってできた旨味があるため、他の調味料を加える必要はありません。

臭豆腐とヒユナ菜梗です。
この臭豆腐は紹興酒の里の紹興のつくり方で、豆腐を漬物汁に漬けた汁気の多いタイプです。乳酸菌と酪酸菌による発酵食品で、その名の通り異臭を放ちます。発酵によって豆腐のたんぱく質からつくりだされた旨味成分をしっかり含んだ深い味わいは、その異臭を忘れさせるほどの美味です。この漬物汁には天然の抗生物質が見つかっています。
ヒユナの茎もおなじ漬け汁で漬けられたものです。ヒユナの茎は少々熱を通したくらいでは硬くて食べられたものではありませんが、乳酸菌がこれを2週間ほどかけてやわらかく加工してくれます。
【油炸臭豆腐】
【発酵ヒユナ菜梗蒸臭豆腐】

塩漬けして漬物にした蝦や魚です。
海産物の発酵食品は中国南部の沿岸地帯の寧波や厦門や潮州で作られますが、保存がきくので、昔から遠くまで流通しています。発酵によって食べ物を劣化させない(酸化させない)抗酸化物質をつくりだしているものがあり、それが長期保存に有効なのです。抗酸化物質は近年では若さを保つと注目されていますが、昔の海運業に携わった港町の人々には、南海をめぐる長い船旅にかかせない保存食であり、海商として生きた人々のバランス栄養食だったのです。
【咸蝦草菇芦筍湯】
【清蒸梅香魚】

金華ハム。上段に山積みされているもの。
火腿(中華ハム)です。
火腿は金華地方のを金華ハムと呼びます。豚のもも肉を塩漬けして水分を抜いてから青カビをつけて熟成させます。表面のカビが肉の内側の水分を蒸発させるので重量は半分以下になり、肉は乾いてカチカチになります。また青カビの抗生物質が雑菌を寄せ付けません。この発酵は日本の鰹節づくりとやや似ています。
酵素の働きにより蛋白質が旨味成分のアミノ酸に変わり、その旨味を活かしてスープや炒め物に使われます。また酵素によって脂肪が分解されているため、これからとったスープには油が浮きません。
【冬瓜蒸火腿】


豆板醤はそらまめの豆味噌調味料です。
茹でたそら豆に麹菌を発生させて発酵させ、塩水に漬け、さらに唐辛子とともに1年間ほど漬けこみます。塩水に漬けこむその漬け汁の表面を天日干しする独特の製法があります。豆の澱粉が麹によって糖化され、その糖分を酵母がアルコールにしたり、唐辛子を漬ける段階では乳酸発酵で酸味を得たり、各工程で多様な成分がつくりだされて深い旨味を醸し出します。四川省ピー県が豆板醤づくりの本場です。豆板醤よりもこれを使う「麻婆豆腐」のほうが有名です。当店の「麻辣火鍋の薬味セット」にも豆板醤を使っています。
【豆鼓蒸排骨】
【麻辣栗子鶏心】
【麻辣火鍋の薬味セット】


紹興酒(黄酒とも呼ばれます)です。
もち米を原料とした醸造酒です。クモノスカビなど様々な菌類の一群の働きで発酵する麹は、複雑な味をつくるだけでなく、数々の薬効成分をもつくりだします。菌類は自ら作り出したアルコールによって死滅し、さらに甕に詰める段階の火入れの熱によって変化が止められますが、甕の口を乾燥した蓮の葉で覆い石膏で固め、10年20年と長期熟成されるとまろやかに仕上がります。


紹興酒やその酒糟(粕)は調味料として使われます。
また、もち米でつくった甘酒の酒醸は中華料理のデザートの定番です。麹菌が米のたんぱく質を分解するための酵素をたっぷりと含むので、食後のデザートとして消化を助けてくれます。
+【糟溜魚片】
+【酒醸小圓子】

熟れ鮓

熟茶のプーアール茶は発酵食品です。消化を助ける以外にも様々な良さがあることがおわかりいただけたと思います。
とくに注目すべきは保存食としての機能です。菌類が自らの繁栄のために他の雑菌を寄せ付けない抗生物質をつくったり、劣化をふせぐ抗酸化物質をつくったりしています。それらは人の健康に役立つ天然の薬でもあります。もちろん人工的に生成された医薬品に比べるとごく少量でしょうが、毎日食べられる自然食品にそのような機能があるのなら、病気になってから薬を買うよりも、美味しい発酵食品を楽しんだほうが良いかもしれません。

■発酵のお茶についての補足説明
プーアール茶には「生茶」と「熟茶」があります。
お茶づくりの段階で菌類の発酵のあるのは熟茶です。生茶にはありません。したがってここまでに話した発酵食品としての機能は熟茶だけのものですが、しかし、一部の古い生茶には長期保存の段階で菌類が関係しているのを当店は確認しています。

熟れ鮓

早期紅印春尖散茶

熟茶の発酵のように菌類が増殖して熱を発するほど活発にな発酵は見られませんが、古い生茶の茶葉の表面には、一時的に菌類が繁殖した跡を確認することがあります。

早期紅印春尖散茶

またプーアール茶の倉庫熟成の本場の香港や広州や、プーアール茶の里の西双版納にも、保存中の茶葉に「金花」と呼ばれる麹菌の一種が発生しているのを見つけることがあります。金花がつくと甘味とほろ苦みが増したようになり、お茶を美味しくすると言われいています。
金花がつくのは、あくまでも温度と湿度が良いコンディションになった時であって、バランスを崩すと(多くは空気が乾燥すると)自然消滅します。 このように穏やかな菌類の活動も発酵のうちと言えると思います。上に紹介した「火腿」や「鰹節」と少し似ていて、表面で一時的に活動した菌類が、保存性を高めたり美味しさを増したりする成分を残しています。

樟香青散茶90年代プーアル茶

香港や広州の古い茶荘の倉庫では、この現象を人工的に促してつくったお茶があります。上の写真の「葉底」(煎じた後の茶葉)は、黒っぽく変質した茶葉が混じっています。これは水分が添加された茶葉に菌類が増殖して発酵したものです。しかしこのお茶は熟茶ではなく生茶として売られています。このつくり方には不良発酵したものも多くあるため、鑑定が難しいのですが、上手に発酵したお茶を飲むと、腹の底から体の温まるような熟茶に近い感覚を覚えます。ちょっと昔の飲茶レストランにはこのタイプのお茶も多かったので、カビ臭いプーアール茶として印象に残っている人も多いはずです。

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