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【オリジナルのお茶の記録】


弯弓秋の散茶2013年プーアル茶 その3

wan gong qiu tian san cha

弯弓秋の散茶2013年

■品茶
弯弓のお茶は今回がはじめてではありません。
過去にアウトレットで販売したことがありました。それ以外にも何度かサンプルを入手する機会があり、共通した風味を自分なりに見つけています。
ここではいくつかの飲み比べを記録して将来の参考にしたいと思います。

■弯弓の春と秋
2012年の春と、この秋の散茶を比べてみます。

弯弓秋の散茶2013年
左: 弯弓春の散茶2012年
右: 弯弓秋の散茶2013年(このお茶)

春の茶葉は小ぶりで茎の短いのに対して、秋の茶葉は大ぶりで茎が長く育っています。山の水の量が茶葉の育ちに関係しています。この地域では春は乾季の終わりになるので、いちばん乾燥します。
鮮葉の水分量にあわせて「殺青」(鉄鍋炒り)の火入れを調整するので、春と秋は素材そのものの違いだけでなく製茶の違いも加わります。

弯弓秋の散茶2013年

弯弓秋の散茶2013年
左: 弯弓春の散茶2012年
右: 弯弓秋の散茶2013年(このお茶)

舌触りのなめらかさ。香りの密度の濃さ。口に含んだ瞬間の印象は春には適いません。じっくり味わってみると春の辛味はヒリヒリと痺れるくらいなのですが、バランスの妙味で、甘味や旨味を引き立てるスパイスとなっています。秋の茶葉はスパイスの刺激が少なくすっと入ります。おっとり甘くて、後からジワっと辛味・渋味が効いてきます。
「萎調」に時間をかけた効果があって、秋のにはレモンのような酸味が立って、ややバランスが悪い気がしますが、これは月日が経つと落ち着いてきます。半発酵を強めた生茶は、半年から1年経ってからが本領発揮です。その点でも2012年の春の散茶は飲みごろの旬を迎えているのかもしれません。
艶やかな喉越しは春も秋もまったく同じで、弯弓の沢水のように澄んでいます。

■丁家老寨の原生品種と弯弓
つぎに、今回同じ製茶方法でつくった丁家老寨の秋の散茶と比べます。
「弯弓」と「丁家老寨」は直線距離にして15キロほどしか離れていませんが、それでも違いがあります。
丁家老寨の農地には先祖が植えたと伝えられる茶樹と、いつの時代からあるのかわからない古い茶樹とが混在しています。古い茶樹のほうのは原生の品種と推測できます。当店はこれだけを選んで茶摘みをしているので、品種的には弯弓のと同じ可能性が高いと思われます。

弯弓秋の散茶2013年
左: 丁家老寨秋の散茶2013年
右: 弯弓秋の散茶2013年(このお茶)

丁家老寨の茶葉がやや小ぶりなのは、これも山の水の差でしょう。丁家老寨の山の上のほうはお茶以外の作物がなく、自然林が豊富にあります。しかし、同じ自然林でも弯弓よりも木々の育ちが小さいのです。海抜が比較的高くて涼しいことや、山の形状の違いが気候の違いとなっているのだと思います。弯弓の山の背には丸みがあり、それに比べると丁家老寨は傾斜のきつい三角です。気温や風の流れや陽の射す角度が違うので、水源となる森の育ちもまた少なからず違い、茶葉の育ちに影響するのでしょう。
また、茶摘みの技術は丁家老寨の農家のほうが上です。「熟した枝」の栽培をしっかり守り、柔らかい新芽・若葉を選んでいます。
写真ページ
【易武山丁家老寨 秋天】

弯弓秋の散茶2013年

弯弓秋の散茶2013年
左: 丁家老寨秋の散茶2013年
右: 弯弓秋の散茶2013年(このお茶)

味はそっくりです。
弯弓を専門にしている茶商でもないかぎり違いを見抜くのは難しいレベルです。価格差は3倍以上。産地偽装で儲けることができます。(できるということはあるということでもあります。)
どうしても弯弓でなければならない理由を考える良い機会です。
上に述べたとおり、丁家老寨では一般的には品種を選んだ茶摘みをしていないので、ここまで似ることはまず無いと思われます。ホンモノが入手できれば、弯弓は原生品種の純度100%になります。そこが魅力です。
また、じっくり味わってみると少しの違いが出てきます。
丁家老寨のはフワッと香って、弯弓のはツンと香る。
丁家老寨のは辛くて、弯弓のは甘い。
丁家老寨のは薬味で、弯弓のは果実味。
丁家老寨のは余韻が短くて、弯弓のは余韻が長い。
丁家老寨のは喉をとおり、弯弓のは喉に消える。
この違いをもっと拡大する製茶技術はあるのか?というのを次回は考えてみたいと思います。
今すぐわかる範囲で、弯弓にしかできないことがあります。
それは、密林の影でまだ眠っている茶樹の葉を、冬の1月か2月に摘むことです。弯弓は密林の奥の茶樹だけは冬でも少し芽が出ると聞いています。他の茶山では冬は新芽の出るのが完全に止まるか、出てきても摘めるようになるまでに20日間もかかって硬くなります。弯弓の深い森の豊富な水と温暖な気候が、冬の乾季を無くすのでしょう。
少量しか入手できないので価格との兼ね合いになりますが、いちどは狙ってみたいお茶です。

■ラオスの散茶と弯弓
ラオスの散茶は2013年の春に出会った晒青毛茶です。『ラオス瑶族の散茶2013年』としてアウトレットに出品(現時点)しています。
漫撒山に隣接するラオスではなくて、もう少し東へ入った紅河州とベトナムの国境に近い山のお茶と聞いています。同じ瑶族のお茶です。
ひと目見てすぐに原生の品種の特徴に気付きました。飲んでみると、漫撒山とはひと味違う風味があり、つづけて何日か試飲をして気に入りました。

弯弓秋の散茶2013年

茶葉の形は良く似ています。
製法もほどんど同じだと思います。

弯弓秋の散茶2013年

弯弓秋の散茶2013年
左: ラオスの散茶2013年
右: 弯弓秋の散茶2013年(このお茶)

基本的によく似ているお茶です。
ラオスの散茶は春の茶葉なので密度の濃い感じがします。香りが少ないかと思っていましたが、こうして比べると花のような甘味の薫ることに気付かされます。
ラオスの散茶はとても甘いお茶ですが、弯弓のほうがさらに甘いので、やはり瑶族のお茶は甘いのでしょう。サラッとした甘味で、量産モノのようなしつこい旨味をともないません。
弯弓のように野生状態で育つ茶樹は雲南省南部からミャンマー・ラオスにかけて広く分布していますが、そのいずれもが同じように高く評価されているわけではありません。人気の集まるお茶に共通の特徴として「素朴ながら繊細」というような類い稀なバランスがあるように思います。「濃くて涼しい」。「辛くてまろやか」。「淡くて深い」。料理人がなにかとなにかを組み合わせたのではなく、自然に育ったお茶にその奇跡を見つけると嬉しくなります。

■弯弓の黄片の餅茶
11月7日に弯弓で茶摘みをした帰りに、瑶族の農家の家に寄りました。鮮葉の価格は過去最高値をつけています。それに悪い気がしたのかどうかわかりませんが、家の奥からゴソゴソとなにか取り出してきて「コレどうぞ」と頂いたのが、『弯弓の黄片の餅茶』です。春の茶葉だそうです。

弯弓秋の散茶2013年弯弓秋の散茶2013年

弯弓秋の散茶2013年弯弓秋の散茶2013年

その場で包み紙を開けて良く見ると、茎のところに白い粉が付いていました。カビです。鼻を近づけて嗅いでみたらほのかな甘い香り。わかる人にはわかる老茶のあの香りです。ありがたく頂いて帰ることにしました。

弯弓秋の散茶2013年弯弓秋の散茶2013年

しみじみ美味しいお茶です。
このお茶はサンプルとしてしばらく手元に置くつもりです。

■お茶の鑑定
この文章を書きながら、老茶に似た面白さを感じていました。
当店が過去に扱った老茶はこちら。
【過去に紹介したプーアル茶】
1980年代以前の老茶は銘柄の数が限られていたので、美味しさや素材の良し悪しを語る前に、ホンモノを鑑定することが大事でした。
鑑定本が写真で解説しているので、包み紙や茶葉の様子はわかりますが、肝心のお茶の味はわからないので経験するしかありません。
味の特徴から、茶樹の育ち・産地の自然・製法の痕跡・保存状態、それらを知ってゆきます。タイムマシーンがないので老茶の茶摘みの現場は見れません。保存された倉庫も転々として今に至ることが多く、すべてを見ることはできません。老茶を専門にしていた頃は、まだ西双版納へも訪問したことがありませんでした。現地へ行った茶商の話を聞くなどの少ない情報から想像力を働かして、茶樹・茶山・製法・保存などの違いを知ってゆきます。それを手元にあるお茶の味と関連付けてゆきます。
そうやって、お茶の味をとおして自然や農業を理解してゆきます。ここで理解するのは自然の法則であり、農業の道徳です。

弯弓秋の散茶2013年
(弯弓のお茶専門の製茶業者の3種を試飲。殺青の人が違う。)

「鑑定」というプロセスがあるからこそ「違い」に気付き、「違い」があるからこそ「現象」を見つけ、「現象」があるからこそ「法則」や「道理」にたどり着くことができます。
弯弓の晒青毛茶はこの数年ずっと高値を更新し続けていて、当店がもしもこれで餅茶をつくると1枚5万円を超える価格になります。辺境地のお茶も様々で、上に挙げたラオスの散茶であればよく似ているのに4分の1の価格です。弯弓のお茶が高価なのは鑑定価値があるからです。ホンモノの違いをよく研究されているのは知的財産みたいなもので、そんなお茶にしかたどり着けない核心があると思います。

■弯弓の小葉種
最後に、弯弓の帰り道のちょうど入口のあたりで見つけた「小葉種」を紹介しておきます。
小葉種は、弯弓にもともとあった原生の品種ではありません。清代の1800年代に雲南のお茶の需要が増した頃、北の方から持ち込まれた品種です。旧大茶山のうちの象明の地域にある「革登」・「莽枝」・「倚邦」にはこの小葉種の古茶樹が多くあります。

弯弓秋の散茶2013年

弯弓秋の散茶2013年

弯弓秋の散茶2013年

弯弓には少なくて、この日に見かけたのはこの1本だけでした。樹齢200年以上はあると思われるので、旧六大茶山の歴史が交錯したことを生きながらに証明しています。
小葉種のお茶の風味のほうがより多くの人になじみがあります。なぜなら、世界にお茶が普及した時代はすでに北の地域にたくさんのお茶どころができており、寒さに強い小葉種が繁栄していたからです。世界のお茶市場に原生の雲南大葉種の締める割合は、清代からますます減っていったことでしょう。

弯弓秋の散茶2013年

弯弓秋の散茶2013年

弯弓秋の散茶2013年

■飲み方のコツ
実は難しいこと無く誰にでもわかる美味しいお茶です。

弯弓秋の散茶2013年

キレイにつくっているので洗茶は必要ありません。
熱湯で短時間サッと湯を切って香りだけを抽出するようにしてみてください。弯弓ならではの「蘭香」が薫ります。

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