■成熟
と、思います。
「自然でありながら自然にはない風味」、まさしく茶文化の影響であり、都市生活者の感性です。このことが古い栽培技術に浸透している漫撒茶山は、その歴史を証明していると言えるかもしれません。
「丁家老寨のあの男には、なにか考えがある。」
と、2年前に噂を聞いたのがきっかけでした。
しかし、その「考え」というのを理解するのに時間がかかっています。
この農家は、農地に10本に1本の割合で残る先祖代々からの老樹を大事にして、技術がある人以外は、他人にも家族にも触らせません。ほとんど自分がひとりで茶摘みをするのです。そのため、当店オーダー分は量に限りがあります。
熟した枝をつくる。
丁家老寨には半数以上の農家がこの栽培をつづけていますが、枝に分岐を許さない徹底ぶりはこの農家に際立っています。
繊細なること盆栽のごとし。
「この葉は落してよい、この芽は摘んではいけない」と、まるで盆栽の手入れのように、葉や茎の形状に応じた茶摘みをします。
とくに難しいのが頂芽(枝の先端の芽)。摘んでよい品種と摘んではいけない品種とがあるようです。
写真は隣の農地との比較です。
隣の農地の茶樹には古葉がついたまま鬱蒼としています。
この農地の茶樹は枝がスカスカで向こうの景色が見通せます。
弯弓ではここまで手入れされた茶樹は見かけませんでした。清代の貢茶づくりを経て、栽培技術が成熟していった過程を見るような気がします。
■農地
お茶のような多年生植物は、収穫期と休耕期のオンとオフのバランスをとりながら生産活動をしています。例えば、スポーツ選手が大会に向けてコンディションを高めてゆくように、茶樹は春にむけて新芽を充実させ、人はそれに働きかけて特別な風味を得ようとします。
農地の整備はそのためにあります。
なぜなら、自然林の中にあるお茶の樹は、雨の季節の始まる4月の終わりごろにならないと芽を出さないからです。その頃すでに気温が上昇し、春の風味を損なっています。
丁家老寨は山の8割が自然林です。
自然林を残しておけるのは、お茶だけで農家の生計が成り立つからです。
保水力のある自然林は、冬の乾季でも朝霧を発生させ、お茶の甘い風味を守っています。
西双版納の多くの茶山が作物を多品種生産するため、自然林が少なくなる傾向にあります。高級なお茶づくりは山の生態系を守るひとつの手段となります。
ところで生態系といえば、その頂点にいた虎が50年ほど前まで現れていたそうです。
昨年秋の写真です。
秋の枝には古葉を残し、下草は生え放題で、茶樹を休ませています。 秋から冬にかけて地上部の葉や茎の成長は止まっていながら古葉は光合成を続けて、根を肥やします。
つぎの春に熟した枝に栄養が集中します。
無肥料栽培でもじゅうぶんに肥えた芽が出てくるのは、このオフの期間があるためです。
+【易武山丁家老寨 秋天】
下草の処理は、冬の乾季のうちに行われ、いくつかのタイプがあります。
1.草刈りもなにもしない
2.乾季に下草を適当に刈る
3.乾季に鍬入れをする
この農家は3つのタイプを使い分けています。
山の斜面の土質や水分や日当たりに合わせて下草を調整します。
鍬入れは、一般的には土の通気性を確保したり、肥料を混ぜ込んだり、細根を更新したり、という目的で行われるそうですが、丁家老寨の土はもともと柔らかく、肥料は加えないので、細根を更新することが目的となります。強いて言えば枯れ草の養分が加わるかもしれません。
土の表面から30センチくらいに多いとされる細根は、鍬入れによって適度に切断され、新しい根を更新します。
乾季に鍬入れをすると表面の土が極度に乾燥します。
そのため細根はやや深く潜って成長します。これによって、春は5日ほど早く摘み時が来ますが、その割にゆっくり成長するので、期間が長くなります。
たった5日ですが、早春のまだ寒いくらいの気温の5日間に育つ新芽や若葉は、とくべつ茶気の強い風味になります。口にした瞬間パッと華やぐ感じです。
易武山の過去の銘茶にはこれが利用されていました。
易武山麻黒村のお茶どころは、剪定によってさらに7日も早い摘み時を迎えます。この早春のいちばんを狙ったお茶を、当店は2011年に一度つくりました。
+【易武春風青餅2011年プーアル茶】
一方で、下草を残すと新芽の摘み時は数日遅くなります。
そのうえ成長が早いため、春に雨の多い年には摘み取りが間に合わず、開いた老葉が多くなります。2013年はややその傾向がありました。
農家は前日に下見しておいて、今日の茶摘みをする農地を選びます。
では、それはいったいなにを基準にして選ぶのでしょうか?
■采茶
旬の一日一日、茶葉のコンディションは変わってゆきます。
気温、空気や土の含む水分、そして茶葉の成長。
もしもプーアール茶の原料となる毛茶に均質を求めるのであれば、できるだけ同じ日に、いっきに茶摘みを終えたほうがよいことになります。
この地域でそれほどいせいに成長の足並みがそろうのは、畝づくりの新茶園か、古茶樹であれば剪定された茶樹のみです。
易武山麻黒村のお茶がそれです。
今年2013年の易武山麻黒村では、アルバイトを15人も雇って4日で摘み切るというやり方で成果を上げた農家があります。剪定の性質を生かした合理的な手法と言えるでしょう。これをさらに追求すると、茶葉の形や大きさの揃う単一品種のほうがよいことになります。
一方で、丁家老寨はあっちこっちに一本ずつ摘み時を迎えます。そのうえ熟した枝の茶摘みには熟練がいります。そのため人海戦術が難しいことになります。熟した枝の栽培をやめる農家が出てくるのも仕方のないことです。
刻々と変わるコンディション。
品種特性が現れて足並みのそろわない成長。
農家がほとんどひとりで行う古樹の茶摘み。
昨年のお茶『丁家老寨青餅2012年』も、この同じ状況でつくられたわけですが、そんなブレを気にしないでもよいお茶でした。しかし、今回はそれとはちがう風味を求めました。このことで予想もしなかった結果になります。
■その4 製茶 (まだつづきます)
+【漫撒古樹青餅2013年 その4】
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