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漫撒古樹青餅2013年 その4

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漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

■製茶
中国には様々な種類のお茶があります。
緑茶・青茶・紅茶・黄茶・白茶・黒茶。これらは製法のちがいを示していますが、それぞれに適した品種や栽培技術があります。
逆に言えば、その地域の品種の茶に適した製法が発達したとも言えるでしょう。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

漫撒茶山の茶葉は餅茶タイプのプーアール茶づくりに古くから用いられてきました。しかし昔の餅茶が新品だったときの味がいまひとつはっきりしません。肝心のその現物は、今や60年以上も経つ枯れた風味の老茶なのです。

餅茶についての補足説明
(過去に同じようなことを書いていますが、もう一度簡潔にまとめます。)

昔のプーアール茶には生活のお茶と嗜好品のお茶とがありました。

レンガ型の磚茶、キノコ型の緊茶、お椀型の沱茶、これらの固形茶は西南シルクロードの「茶馬古道」を経て、チベットや青海、ネパールやインドなどの高原地帯の遊牧民と交易されていました。チベット仏教の僧侶もこのお茶を好みました。
産地は雲南省南部のほぼ全域にあり、その多くが苦いお茶でした。栄養補給のための生活のお茶です。

プーアール茶の中で唯一嗜好品のお茶をつくった歴史のあるのが、西双版納州孟臘県の旧六大茶山です。易武山や漫撒茶山(旧易武山)はその中心でした。茶文化との関わりの深い瑶族(ヤオ族)のつくったお茶どころで、唐代から今に似た製法のお茶づくりの記録があります。瑶族には布を使って円盤型の固形茶をつくる伝統があるため、ここに餅茶のプーアール茶が誕生したと考えられます。

瑶族のお茶は甘いのです。
これが都市生活者の嗜好を捉えたのではないでしょうか。餅茶のプーアール茶は明代から清代にかけて国内外の都市に向けて輸出されます。

これらいろいろをまとめて「プーアール茶」と称するのは、かつてプーアール県に関所があったからです。(産地についた名前ではありません。)
苦いお茶も甘いお茶もこの関所を通っていました。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

海のシルクロードの東西交易が盛んになった1600年代後半からは、イギリスをはじめとする西洋諸国にもかなりの量の餅茶が輸出されたと考えられます。 (ちなみにイギリスではこれを緑茶ではなく紅茶と認識したはずです。)
南シナ海からインド洋にかけて交易の仕事に活躍した広東系の華人。広州の港に近い香港・マカオ。マラッカ海峡のペナン・マラッカ・シンガポール。インドネシアのバタヴィア(現ジャカルタ)。港町のお茶好き達はこのお茶を愛しました。
香港では後に長期熟成による「越陳越香」の味わいが発掘されます。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

隆盛を誇った中国茶の交易も、インドではじまった紅茶の大量生産や、清朝政府の衰退とともに陰りを見せ始めます。
中華人民共和国成立後、1950年代の農業改革で雲南のお茶は国の専売公社制となり、易武山の民間茶荘によるお茶づくりが終息します。
大規模な国営茶廠による量産がはじまります。
しかし、この頃まだ国営の「孟海茶廠」や「下関茶廠」の代表的な餅茶には孟臘県の易武山周辺の茶葉が使用され、海外へ輸出され、工業発展する前の貴重な外貨を稼いでいました。

丁家老寨青餅2013年プーアル茶

1970年代の改革ではさらに共産主義的な工夫が求められます。微生物発酵の「熟茶」製法はこの頃に生まれます。
生茶の餅茶はブレンド化がすすめられ、1980年代からは雲南省南部全域から原料が調達されるようになります。それまでは緑茶や紅茶をつくっていた地域も、プーアール茶に原料の毛茶を提供するようになります。
経済発展により国内に巨大な市場が生まれるとともに、雲南の茶業は自由化されます。2000年頃から餅茶は民間で自由につくられ、苦いのや甘いのやいろいろになりました。

1950年代まで易武山の民間茶荘がつくっていた昔の餅茶に甘味が求められたことは想像できますが、製茶にどのような工夫があったのか?職人の手にしか記録されないような詳細は不明な部分が多く、今もって謎のままです。

参考ページ
+【西双版納の江北の茶山について・易武山】
+【沈香老散茶50年代プーアル茶】
+【南糯古樹青餅2010年プーアル茶 その4】
+【茶商の倉庫がプーアール茶の味をつくる】
+【版納古樹熟餅2010年プーアル熟茶】

生茶のプーアール茶は「烏龍茶」だったかもしれない。
昨年の『丁家老寨青餅2012年』 でその話をしました。
+【丁家老寨青餅2012年プーアル茶】

そして、今年はもっと烏龍茶らしさを意識してみます。
熟した枝の茶葉は青茶(烏龍茶)に向いていると考えたからです。
瑶族が関係したお茶どころにも烏龍茶の名山があります。
広東省潮州の「鳳凰烏龍」。
福建省武夷山の「岩茶」。
福建省安渓県の「鉄観音」。
今や栽培も製茶技術も大きく異なりますが、風味にはなんらかの共通点があるのかもしれません。
あくまでもプーアール茶の製法にてこれをつくり、最終的に圧延加工した餅茶にします。なので、少し烏龍茶っぽいプーアール茶といったところでしょうか。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

この試みは予想以上に精密さを求められました。

実は、昨年の秋にも少し試していました。
その品は『丁家老寨秋天小青餅』としてアウトレットに出品し、お客様には香りが良いと評価をいただきましたが、自己評価では思っていたほどではありませんでした。烏龍茶らしさである「甘い香り」が強調できなかったからです。

丁家老寨では「堆積萎凋」という手法で甘いお茶をつくった過去があります。
基本的にはプーアール茶の原料となる晒青毛茶づくりと同じですが、鮮葉を炒って揉捻した後に、一晩堆積させて乾燥を防ぐのです。次の日の太陽に晒すと、ゆっくり乾燥しながら甘い香りを帯びます。
そのお茶はベトナムのフランス人に販売(密輸)されていました。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

甘い風味の鍵となるのは水分です。
それで、布を使ってみました。
堆積萎凋でまんべんなく湿った状態に保つ効果があります。
昨年の秋にこの方法がうまくゆかなかったのは、茶葉の水分が多すぎたからです。春の茶葉は水分が少ないのでうまくゆく。そうカンタンに考えていました。
実際に、昨年5月に南糯山で試したお茶(アウトレットで『夏の薫る散茶』という名で出品)は、布をつかって甘い香りが得られました。しかし、今から振り返ると、特別に雨の少ないときで、もともと茶葉の水分は少なかったのです。

今年2013年の春は、まだ乾季の終わらない2月中にめずらしく雨が少し降りました。
3月中旬から茶摘みに参加しましたが、そのときすでに布を使った毛茶が少し仕上がっていたので、さっそく試飲すると、秋の試作とあまり変わらない出来でした。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

栽培と製茶は一連です。
その日に摘んだ鮮葉を、その日に製茶します。
例えば、指先は茎をつまんで折り取る感触から、その日、その山、その茶樹の鮮葉のコンディションを把握しています。水分がどのくらいあるのか、繊維質がどれほど育っているのか、醤と呼ぶ成分が濃いか薄いか、などなど。
それに合わせた製茶をします。
萎凋ー殺青ー揉捻ー晒干。
この一連の作業は、萎(しお)らせたり、炒ったり、揉んだり、干したり、ということをしますが、茶葉のもつ水分の調整がその風味を決める鍵です。

今日はどこの農地の茶摘みをするか?それはなにを基準にして選ぶのか?
その答えのひとつは「茶葉のもつ水分」です。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

経験不足のため茶摘みではわからなかったのですが、 殺青後に揉捻した手の平でわかりました。
水分が多いのです。

「萎凋が足りませんね。」
農家もそのことに気付いていました。
「萎凋」とは、摘みたての鮮葉を空気に晒してゆっくり乾燥させることで成分変化をうながす技術です。乾きながら甘い香りが生まれます。ピンピンしていた鮮葉が、読んで字のごとく萎れてゆきます。
烏龍茶や白茶や雲南紅茶づくりでは日光萎凋(天日干し)することもあります。
+【巴達古樹紅餅2010年紅茶】

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

プーアール茶づくりは萎凋を意識しません。
技術的な工夫もとくにありません。摘んだ鮮葉をしばらく笊にひろげて、少しは香りがやわらぎますが、まだピンピンして水分のある鮮葉を当日のうちに炒って、その熱で成分変化を止めます。
ところが、形状の粗い雲南大葉種は短時間の殺青では火が通り切らず、変化の余地が残っています。次の日に太陽に晒されて乾燥するまで、水分のあるうちは萎凋のような変化がわずかながら続きます。

萎凋は、水分がありすぎても乾燥しすぎても好ましい香りは得られません。 萎れるスピードを調整し、放つ香りを頼りに味を決める、経験と感性の職人技です。
有名茶師の烏龍茶に高値がつくのは、この違いがあるからです。

今年のように水分のある茶葉は、プーアール茶の一般的な製法では水分調整が難しくなります。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

ちょっと長く炒ってみたり。
揉捻を強くして水分を抽出させてみたり。
一晩布でくるんで水分を保ってみたり。
布をはずして水分を蒸発させてみたり。
プーアール茶の製法を逸脱しない範囲でいろいろ試みましたが、その結果が出るのは次の日の晒干が終わった夜になります。結果をみてからまた手を変えて次の日の夜を待つ。
若葉は日に日に成長し、茶摘みは待ったなしに進みます。
満足のゆかない晒青毛茶がどんどん出来上がってゆきます。
早朝5時半に起きて、弁当をつくって山に上がって日が暮れるまで茶摘みをして、戻ってさっさと夕食を済ませて深夜12時までの製茶作業。
水分のある鮮葉は重くて、それを運んだりひっくり返したり揉んだり広げたりを繰り返すのはたいへんな作業です。薪を割ったり水を汲んだり、なにからなにまで重労働で、疲れて口もきけなくなってきます。筋肉や関節は腫れて発熱して眠りも浅くなります。

「ちゃんと火が通っていない。やり直し!」
と、4日目の殺青の炒りにダメ出ししたのがきっかけでした。
いったん冷ましてから、もういちど鍋で炒ると、水分がほどよく蒸発しました。
「あれ?これでいいんじゃない?」

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

二度炒り製法の発見です。
火入れ半分半分。
一度目の炒りはごく軽く、水分を飛ばすだけで笊に広げ、軽く揉捻。そのまましばらく笊に広げておくと、萎れて甘い香りを発します。
二度目の火入れは残り半分。ここでしっかり火を入れて、さらに水分を飛ばします。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

二度目の炒りの後はさらに揉捻。
水分が減って萎れた茶葉は醤と呼ぶ成分が濃く、手に粘りつきます。
この粘り。求めていた手の平の感触です。
次の日の天日干しまで湿り気を保ちたいので、ここで布が有効になります。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

農家が思い出したように言いました。
「そういえば、もう10年も前だったか、広東の茶商がとなりの家で二度炒りを試したことがあります。すごく良い香りでした。」
「なぜそれを早く教えてくれないのですか?」
「火入れをしっかりすることが目的で、まさか萎凋の効果があるとは気付かなかったのです。」

この日から二度炒り製法に切り替えました。
しかし、春の茶摘みはすでに半分ほど終了していました。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

一般的な製法:
萎凋ー殺青ー揉捻ー晒干。

二度炒り製法:
萎凋ー殺青ー揉捻ー萎凋ー殺青ー揉捻ー晒干。 

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶 左: 二度炒り製法
右: 一般的な製法

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

晒干が終わった毛茶を農家の茶器で飲み比べても、風味の違いは明らかです。
二度炒りを南糯山でも試したいので、山を降りることにしました。
漫撒茶山から景洪市に戻るのにはバスでまる一日。次の日にまたバスに乗り、途中からバイクに乗って山を上がって農家に向かいました。
+【南糯蜜蘭青餅2013年プーアル茶 その3】

それから8日後、
丁家老寨の今年の春の最後の茶摘みが行われました。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

冒頭の写真で紹介していた大きな茶樹です。
なぜかこの大きな樹だけ、他に遅れること1週間ほどで摘み時を迎えます。
これと同じ同じ品種のがもう1本あります。茶摘みに1日かかるので、2本で2日。摘み終わったのが4月3日。
ちょうど清明節の直前、「明前」で漫撒茶山の春は終わりです。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

■ラオスの瑶族
茶摘みの季節になると、丁家老寨にはどこからともなく人がやってきて、忙しいお茶づくりを手伝ってくれます。ラオスから山を越えて出稼ぎにやってくる瑶族の人たちです。裏山には国境も検問もありません。
この人たちは先祖代々こうやってお茶の仕事をしているので、漢語が話せて、茶摘みから製茶までなんでもできます。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

丁家老寨の村の人口は200人くらいですが、出稼ぎの人も200人くらいやって来るので2倍になります。各家はご飯や寝る場所やシャワーを提供します。

「なぜ自分たちの土地のお茶をつくらないのですか?」
と、聞こうとしてやめました。
なぜなら、この時期忙しくてアクセクしている丁家老寨の村の人よりも、ずっと自由で楽しそうだったからです。
土地の所有についてここでも考えさせられます。
そういえば、以前にこんなことを書いていました。
+【山に生きるふたつの世界/ブログ茶想】

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

ラオスの山でつくったお茶をたまに瑶族の人が持ってきますが、ほとんどが煙味(囲炉裏の煙りの臭い)がついていて商品にはならない感じです。茶葉はやや開いて大きく育っています。おそらく熟した枝の管理もそこそこなのでしょう。
しかし、葉底(煎じた後の茶葉)を見ると、茎が角ばって長く育つ「弯弓」と同じタイプ。品種のオアシスがそこにもあるのでしょう。

漫撒古樹青餅2013年プーアル茶

■その5 圧餅 (つづき)
+【漫撒古樹青餅2013年 その5】


漫撒古樹青餅2013年 1枚 380g


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